2011年10月 1日 (土)

へっぽこ投資入門 目次

世の中に、投資に関連したサイトはたくさんありますが、特定の金融商品の説明だったり、特定の投資手法の説明だったりすることが多く、投資そのものの入門を勉強できるところは少ないように思えます。

それならば、自分で書いてみようと思い立ったものの、これが素人の浅はかさ、どんどん内容がへっぽこになりました。それでも、どなたかの何がしかの足しになればと、公開することにしてみました。

目次
1 端書

2 リスクについて
2-1 リスクとは
2-2 リスクの種類

2-3 信用リスク
2-3-1 信用リスクとは
2-3-2 信用リスクへの対処
2-3-3 (余談)投資において信用してはいけない相手

2-4 流動性リスク
2-4-1 流動性リスクとは
2-4-2 流動性リスクへの対処
2-4-3 流動性リスクへの対処?
2-4-4 流動性リスクはついてまわる
2-4-5 流動性リスクと分散投資
2-4-6 流動性の余談

3 国債の買い方
3-1 なぜ国債
3-2 債権への投資の考え方
3-3 ワイルドカードとしての『個人向け国債(変動・10年)』
3-4 本当に国債を買っちゃっていいの?

4 算数的マメ知識
4-1 複利の利回り
4-1-1 72の法則
4-1-2 相加相乗平均
4-1-3 ボラティリティ、レバレッジ
4-2 数字の感じ方
4-3 統計的な考え方

5 裁定取引的な投資の考え方 
5-1 はじめに
5-2 なぜ裁定のようなことが起こるのか
5-3 キャッシュ・アンド・キャリー
5-4 オプションを使った裁定
5-5 いわゆるバリュー投資

6 最後にインデックス投資など

補遺 特約付外貨定期預金(仕組預金)の話

補遺2 特約付外貨定期預金(仕組預金)の「金利」について

2011年10月 2日 (日)

1 端書

姉「さて、これからちょろりと投資の基礎知識について小噺を始めようと思います」

弟「よろしくお願いします」

姉「ときに、クレタ人のエピメニデスは言ったそうです。『すべてのクレタ人はうそつきだ!!』」

弟「故郷で、よっぽどひどい目にあったんだね……」

姉「と、人が良い弟は考えるのですが、そう言ってるエピメニデス自身もクレタ人なんです。さてはて、彼の言うことを信用してよいのでしょうか」

弟「うーむ」

姉「まあ、『すべてのクレタ人はうそつきだ!!』というのは間違いなんですけどね」

弟「何故に?」

姉「運転免許試験の法則で『すべて~である』という命題は間違いなんです」

弟「……よくそれで免許取れたね」

姉「そしてこの話の流れで本題です」

弟「何?」

姉「本ブログの内容には何の保証もありません。本ブログにより投資判断をされたとしても、その結果に対し筆者は責任を負いません」

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2011年10月 3日 (月)

2-1 リスクとは

姉「なにか投資を始めようというときに、まず気になるのがリスクというものです」

弟「気にならない人は?」

姉「あまり投資向きではないかもしれませんね」

弟「いきなり、そんな乱暴な」

姉「それはともかくとして、そもそもリスクというのは、利酢苦と書き、時は三国時代、魏の国の一地方で行われていた食酢の市で、良い酢を仕入れるために、あちこちの店で酢を飲んで回ったという故事による……」

弟「……姉さん。いきなり民明書房(※注)から出したような嘘八百を並べるのはいかがなものかと」

姉「ぐふ。リスクというのは、一般には不確実性のことですが、特に日本では、損失をこうむるような危険性という意味で使われることが多いですね」

弟「そうなのか。もとが不確実性という意味なら、なんで儲かる可能性のほうでは使わないのかな。日本人が悲観的だからとか」

姉「いえ、そちらには『皮算用』という言葉がちゃんとありますから」

弟「そうなの……か?」

※注 民明書房とは宮下あきら著『魁!!男塾』に登場する架空の出版社で、内容はすごくフィクションです。

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2011年10月 4日 (火)

2-2 リスクの種類

姉「それでは、リスクといったら、どのようなものをイメージするでしょう?」

弟「えーとね、株とか、何か買ったものが値下がりして損をすることかな」

姉「それは、いわゆる価格変動リスクのことですね。実は、それはそれほど重要ではない、といったら言い過ぎかもしれないけれど、目に見えやすい分、怖くはありません。目に見えにくく真に怖いのは、『信用リスク』と『流動性リスク』の二つです」

弟「うーん。確かに、あまり良くわからないけど、その二つが重要なの?」

姉「そう、とても大事。この二つは普段は見えにくい上に、いざはっきり現れたときには手遅れ致命傷になりかねない怖いものです。『星の王子様』にも出てくるでしょう、大切なことは目に見えない、って」

弟「なんだか、僕は今、とても大切なものを汚された気がします」

姉「これは異なことを。大事なことはすべて『星の王子様』で学んだ、って題でビジネス書をバリバリ書けそうなくらい大人向けの童話ですよ」

弟「やめて!」


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2011年10月 5日 (水)

2-3-1 信用リスクとは

姉「それじゃ、信用リスクについてひとつお話を。あるとき、君が投資をしようと思い、証券会社にお金を預けました」

弟「ふむふむ」

姉「その会社が、預けたお金を使い込んじゃいました」

弟「犯罪だー!」

姉「そう、犯罪です。だけど、これが一番わかりやすいこの手のリスクなんです。一般的には信用リスクというのは、債務者が債務を履行できなくなるリスクのことをいいます」

弟「債務というと借金とかのことかな」

姉「確かに、返さなければならない借金も債務といいますが、それだけではなく一般的に、何かを約束したら、その約束の上で守らなければならないことが債務になります。例えば、何か商品を売買することに合意したら、売る側は商品を渡さなければいけないし、買う側はお金を払わなくてはならなりません。売り買いする両方に発生するこの義務が債務なんです」

弟「そうしたら、その場で取引が終わってしまうもの以外は、みんな債務が発生しているんだね」

姉「そうです。そして、そういった債務がきちんと実行されることを意味する信用というのは、経済や社会を支える屋台骨といってもよいのです。これ無しでは複雑な取引は何もできませんからね。今の日本のように高度に経済が発達した社会では、何かものを買うときに偽物を掴まされるんじゃないかとか、銀行が本当に指示どおり送金してくれるかとか、宅急便が荷物を盗むのではないかとか、いちいち不安になることはありません。そのこと自体は良いことなのですが、そうして信用することが日常になっているだけに、お約束や前提事項をまるごとひっくり返されるような信用リスクに対処することが、とても難しくなっています」

弟「うーん。僕もそんなこと考えて生活してないよ」

姉「だがしかし。投資においては、人生を左右するような大金を扱うこともある以上、信用リスクを考えなければいけません。つまらない落とし穴には、落ちたくないのですよ」

弟「嫌な話だけど、人を見たら泥棒と思えってこと?」

姉「警戒心を持つという意味では正しのですが、その言葉では、ちょっと方向性を間違うかもしれません。人は他人を完全に見透かせるほど賢くはないと思います。俺は長年の経験で人を見る目がある、なんて思ってる人ほど騙されますね」

弟「……姉君、あなたはいったい何を知っておられるのですか……」

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2011年10月 6日 (木)

2-3-2 信用リスクへの対処

承前

姉「ゴホン、ゴホン。えー、信用リスクに対処する方法。公的な保証を利用することと、ひとつの投資先に大金を投じないことでございます」

弟「あ、ごまかした」

姉「公的な保証を利用するというのは、例えば銀行の一般預金等(※注1)であれば、銀行が破綻しても、預金保険制度によって1000万円までは保護されるとか、証券会社への預け金でも、日本投資者保護基金に加入しているところなら、倒産しても1000万円までは保護されるといったものです」

弟「へー、そうなんだ。そういえば、証券会社でも分別保管がどうとかいっていたような気がするよ」

姉「確かに、証券会社などでは、顧客の資産を自社の資産と分けて分別保管するというのも基本ですが、正直なところ、倒産するような会社が分別保管を守って顧客の資産に手をつけないことを期待するのは、ちょっと楽観的過ぎるかもしれませんね」

弟「むぅ」

姉「ちなみに、公的な制度のように見えても、レーティングとか格付けとか上場基準とか、たとえ間違いがあっても誰も責任を取ってくれないようなものは、頼りにしてはいけません」

弟「保証があるわけではないということだね」

姉「そして、ひとつの投資先に大金を投じないということ。この大金の定義は、自分の資産に占める割合が大きいという意味です。たいていの人は、自分の全資産の1%が失われても笑っていられますし、10%が消えても何とか耐えられます。けれども、資産が全滅というのは、ちょっと勘弁。なんとしても避けたいですよね」

弟「確かに」

姉「ですから、ひとつの投資先にすべてのお金を投資するということをせずに、万が一失っても大丈夫な額に小分けして投資をします。これがいわゆる分散投資です」

弟「たとえ信用を裏切られても大丈夫なように、なんだね」

姉「安直ではあるのですが、大金を預けないというのは、資産を守るという意味では、譲ってはいけない絶対のルールです。分散投資をすると、一攫千金をあきらめる必要があったりするので、なかなか守れないルールなのですけどね」

弟「そういえば、投資信託は集めたお金を広く分散投資をすることで信用リスクを抑えると広告にあったんだけど、そういうのを利用すればよいのかな」

姉「はい、落とし穴ー」

弟「がびーん」

姉「……そのリアクションはどうかと思いますが」

弟「がちょーん」

姉「……。確かに分散投資は信用リスクを低減しますけど、この場合は話が違います。投資信託は、その投資信託というひとつの投資先でしかないですから。投信運用会社という1つの会社にお金を預けているということなので、信用リスクという面では、ぜんぜん減っていません。価格変動リスクと勘違いしやすいので要注意なのです」

弟「そーなんだー」

姉「もうひとつ似た例を挙げるとすれば、外貨預金関係ですね。米ドルなどの主要通貨は、有力な国々の裏づけがあり、いきなり価値がなくなってしまうということは考えにくいです。しかし、外貨預金の信用を裏付けるのは、それらの国家ではなく個々の銀行なのです」

弟「ということは?」

姉「つまり、いろいろな通貨の外貨預金を持っていて、それらの外貨の価値が健在でも、銀行が倒産すればお金が返ってこないということです。外貨預金は預金保険制度の対象外ですから、もろに信用リスクをかぶることになります」

弟「なるほど。確かに見えにくいリスクだね」

※注1 利息のつく普通預金、定期預金、定期積金、元本補てんのある金銭信託(ビッグなど)等。

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2011年10月 7日 (金)

2-3-3 (余談)投資において信用してはいけない相手

姉「誰も信用してはいけません」

弟「出落ち!?」

姉「……と、言ってしまうと結局どうしてよいのかわからなくなりがちなので、信用してしまいがちなものを挙げてみます」

弟「どきどき」

姉「銀行員や証券会社の社員を信用するような人はいないと思います(※注2) ので、飛ばすとして……」

弟「いきなりひどい」

姉「まずはマスコミ。一例を挙げてみると、2006年に破綻した平成電電の詐欺グループは、大手新聞に軒並み広告を載せていました。ちなみに、近未来通信とかこの手の大掛かりな出資詐欺は、結構新聞に広告を出してたりします。そして、平成電電の広告を載せた新聞社に、その広告を見て出資した被害者が賠償を求めたのですが、2010年2月17日の地裁判決では訴えは棄却されました」

弟「なんだか納得できないなー。新聞はお金をもらって詐欺に加担したようにしか思えないのに」

姉「大体この手の裁判(※注3) では、マスコミはただの素人レベルの審査力しか求められないことが多いです。マスコミも素人ですから、あなた方が騙されたようにマスコミも騙されたんです、あきらめてください、ってことです」

弟「え~?広告でお金をもらっているプロなんじゃないの?」

姉「まー、投資家としては、新聞等に載っている記事は、何の信用もないと考えたほうが良いです」

弟「眉につばだね」

姉「そして、さらに信用してはいけない相手は、その儲け話の参加者、いわゆる口コミです」

弟「え、なんで?実際に経験している人の話なら信用できそうだよ」

姉「そう。それが落とし穴です。普通の商品なら、大抵、実際に使ってみた人の意見が一番参考になることが多いものです。しかし、ことが儲け話になると事情が違います。すでに参加している人間としては、後からどんどん参加者が増えるほうが儲かるのです。株だって、自分が持っているものを後から来た人に高値で売りつけたい。ネズミ講然り、マルチ商法然り、自転車操業の出資詐欺然り。そういう利害関係にある以上、正直な意見が聞けると期待するのは間違いなのです。実際のところ、まったく関係のない人の話のほうが、冷静で役に立ったりします」

弟「じゃあ、ネットの掲示板とかで、こんな株買っちゃ駄目だとか書き込んでいる人は親切なのかな」

姉「いえいえ、それはたいてい空売りしている人たちで、値下がりした株を安値で買い戻すために、そういうことを書き込んでるんですよ」

弟「あうあう。なんか人間不信になりそうだよ」

姉「いえいえ、これはあくまで儲け話に絡むときのことですから、そうでないときは人間不信に陥る必要はありません。しかし、逆に、不用意に儲け話を口にすると、そうやって他人を巻き込もうとしていると誤解されて、信用をなくしかねないので要注意です」

弟「そういえば、友達とはお金の話をするんじゃないって、ばっちゃがいってた」

姉「先人の知恵、畏るべしです」

※注2 参考;山崎 元“「投資バカ」につける薬” 、吉本 佳生“金融機関のカモにならない! おカネの練習問題50

※注3 参考;日本コーポ事件 東京高裁昭和59年5月31日判決(判例時報1125号113頁)最高裁平成元年9月19日判決(判例集民事157号601頁)JAPAN LAW EXPRESS様より

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2011年10月 8日 (土)

2-4-1 流動性リスクとは

姉「次の話は流動性リスクです。流動性は竜堂静とか書くと奇面組(※注A)に出てきそうですね」

弟「そのネタふりに、どうせいと」

姉「同姓の方には謝らせていただきたく……ごめんなさい。流動性というのは、資産と資産の交換のしやすさのことです。交換する資産の片方は大抵お金なので、時にはお金自体のことを流動性といったりもします。何かを買いたいと思ったら、売ってくれる人がいないといけないし、何かを売りたいと思ったら、買ってくれる人がいないといけません。取引相手がたくさんいればいるほど取引は容易になります」

弟「うん。なんとなくわかる」

姉「この取引相手がいなくなってしまうというのが、流動性リスクなんです」

弟「ぬう」

姉「ここで、取引相手というのが大事です。大抵は取引参加者が多いほど取引相手は増えます。取引参加者が多いかどうかは、取引量をみればある程度わかります。例えば東証一部上場株式の取引量は毎日ニュースで流れますね」

弟「本日の出来高は○○株で、って言ってるやつだね」

姉「しかし、困ったことに、取引参加者が多いほど取引相手が多いというのは、時に成り立たないのです。例えば、取引参加者が多くても、一斉にみんなが売りたくなったら、取引相手が見つからなくなることがあります」

弟「それは困るね」

姉「すごく困ります。たとえば、現在のところ、米株式市場で1日での下落率の史上最大記録は1987年10月19日に起きた通称ブラックマンデーの暴落です(※注4) 。この暴落が起きた原因のひとつに、流動性の枯渇があげられています」

弟「どういうこと?」

姉「この当時、今で言うところのアルゴリズム取引が普及し始めたときだったのです。もし株価が下がっても、コンピュータが自動で手持ちの株を売って損失を抑えてくれる、あるいは先物に売りヘッジ(※注B)を出してくれる、これは便利だ、ということで大勢の人が採用しました。ところが、皆がこれを採用したことで、株の下落が売り注文の引き金となり、その注文が値段を下げまた売り注文が増えて、と雪だるま式にものすごい大暴落になってしまったわけです」

弟「うみゅう。みんなが一斉に売り注文を出したら、って素朴な疑問だと思うんだけど、みんなそのことを考えなかったのかな」

姉「かえって市場を知っている人ほど、現状を過信してしまうことがあります。まさか、膨大な取引が行われているニューヨーク証券取引所で、取引相手がいなくなるわけがないだろうとね。そして、最後は流動性リスクに、ちゃぶ台をひっくり返されて、すべてが台無しになるわけです」

弟「確かに、いまどきちゃぶ台をひっくり返されるとは思わないよねー」

姉「……昭和の香りが漂っていることは否定できません」

※注4 2010年5月6日取引中の998ドル50セントという下落幅として最大の暴落も同様の原因と推測されています。(参考

※注A 新沢基栄著『3年奇面組』『ハイスクール!奇面組』。登場人物名のほとんどが語呂合わせです。

※注B ヘッジとはリスクを軽減するために、一般的にいうところの「保険をかける」行動をいいます。例えば、先物に『売建て』(指標が値下がりすると利益になる)をしていれば、保有する株式が値下がりしたときに先物で利益が出るために、トータルで損失を抑えることができます(ただし値上がりすると先物に損失が出るので、株式の値上がり益をそのまま享受することができません)。「ヘッジファンドとかヘッジしてるってレベルじゃねーぞ」といった具合に使用。

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2011年10月10日 (月)

2-4-2 流動性リスクへの対処

姉「この対処法もふたつで、取引量の少ない投資先は避けることと、現金やその等価物を多めに持っておくことです」

弟「めもめも」

姉「取引量が多いからといって必ずしも流動性リスクがなくなるわけではない、という話をしましたが、取引量が少ない投資先は、流動性リスクがありまくりで問題外です。間違っても、先物で冷凍えびとか買わないようにしましょう」

弟「冷凍えび取引って、知ってる人いるのかな……」

姉「それはないとしても、流動性が悪いのに手を出してしまいがちなのは、仕手株(※注)とか不動産とかですね。流動性がないと、買うときは値段が高くなるし、売るときは値段が下がるしで、とても不利な取引になります」

弟「でもそれなら、その取引の相手側は得をしてるんじゃないのかな」

姉「相手側も取引相手が現れるまでひたすら待っていたわけで、下手したらまったく誰も来ないわけですから、まあ良くてリスク相応といったところです」

弟「そんなに良い話はないんだね」

姉「また、現金や等価物を多めに持っておくことも重要です。現金の等価物というのは、いつでも引き出せる普通預金や、解約可能な定期預金なんかです(※注5)」

弟「へー。僕の友達のお兄さんは、会社に勤めていて定期収入があるから、リスクをたくさん取れるんだっていって、貯金せずに株をたくさん買ってたけど」

姉「それも落とし穴です。株とかが暴落して流動性リスクが出てくる時は、大抵景気が悪くなりますから、給料が下がったり、下手すると解雇されたりします。そんなときに貯金がないと、不利な条件で株を売って生活費を作らなければならなくなります」

弟「あうあう」

姉「歩のない将棋は負け将棋、という格言もあります。現金や預金それ自体が収益を生み出す力は弱いですが、状況に合わせて自在に動かせるため、切り札としてとても大事なのです。信用リスクと同じく、流動性リスクの場合も、回避するというよりも、流動性リスクが顕在化しても耐えられるようにするというのが正しい方策と思います」

弟「なるほど。じゃあ、具体的にはどのくらい預金を持っておけばいいのかな」

姉「まず、少なくとも数年分の生活費は持っておいたほうが良いと思います。それを差し引いた上で、投資に回す資産のうち少なくとも半分程度は現金や預金で持っておくことを考えたほうが良いのではないでしょうか」

弟「ピンチをチャンスに変えるためにも、余裕が大事だね」

※注5 預金保険制度が適用されるもの。国債もほぼ同等の価値と考えられる。

※注 資金量に物を言わせて価格を激しく動かして利益を得ることを目的とする投機家を仕手筋といい、その仕手筋がターゲットにする、流動性が少なくて簡単に値段を動かすことができる株式を仕手株(仕手銘柄)といいます。

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2011年10月11日 (火)

2-4-3 流動性リスクへの対処?

弟「もし、投資先が投資した元本より大きな損が出る可能性がある、よくいうところのデリバティブ(※注A)だったらどうなのかな」

姉「流動性リスクを堪能できます。まったく注文が通らず、ただ損失が増えていく様は、とてもとても悲しいものです」

弟「いやいや、堪能したくないから」

姉「デリバティブについてはリスク管理がまた違ってくるので難しい問題ですが、おおざっぱに考え方はふたつで、“思い上がった方法”と“割り切った方法”です」

弟「……思い上がった方法というのは?」

姉「1回の取引の損失を2~5%(諸説あり) におさえるというものです。ただし、これを実現するとなると、相当レバレッジ(※注B)を下げるか、パソコンに張り付いていられる間以外は取引をしない、などの方策をとる必要があります。損失をおさえて一発退場を避け取引を続けていれば、プロがしのぎを削っているデリバティブ市場でも相場に勝てる、と思い上がっている人向けです」

弟「……。じゃあ、割り切った方法というのは?」

姉「人生最大の賭け。1回だけ可能な限りリスクをとって、うまくいけば勝ち逃げ、失敗したらあきらめるというものです。どうせデリバティブはゼロサムゲームで、必勝法などないし、取引を重ねるほど手数料分損をするだけだ、と思っている人向けです。ただ、1回だけならうまくいくこともありますが(※注6)、大抵の人はうまくいった時に何度も賭けを繰り返して、開拓地へ行くはめになります」

弟「破産しても自殺はダメゼッタイ。開拓地へ行こうってことだね(※注7)」

姉「……まあ、デリバティブの場合、かなりギャンブルに考え方が近いところがあります。常に冷静に。負けてよい金額以上のチップは絶対にテーブルに置かない。あらかじめ決めておいた金額を負けてしまったら、にっこり笑って席を立つ。……といった鉄則を守れる紳士のための社交場です」

弟「その鉄則は、言うは易し行うは難しだねー。それじゃ肝心の流動性リスクが現れたときにはどうするの?」

姉「部屋の隅でガタガタ震えながら命乞いする心の準備をしてください」

弟「……」

※注6 もちろん成功の条件によってうまくいく確率は変わります。

※注7 開拓地のあてがあるかどうかは実はかなり重要です。

※注A 金融派生商品。いわゆる先物、FX、オプションなど。現物の取引ではなく、指標などを元に、やり取りする金額を決めます。取引金額の一部だけで取引を始められる証拠金取引を採用するなどして資金効率がよいように設計されています。現物の買占めなどされると社会に悪影響があるので、投機資金を現物市場から隔離するという役目があります。そして、一攫千金を狙う人たちが集まる市場でもあります。

※注B 実際に取引されるものの総取引金額と、取引をはじめるときに出さなければならない必要額の比率。通常の株取引では、株式買い付けの全額が必要なのでレバレッジ1倍。信用取引では、たいてい手持ちのお金の3倍までは(足りない分は借金として)株式を買うことができるのでレバレッジ3倍。先物やFXなど証拠金取引では、総取引金額の一部のみを証拠金として出せばよいので、総取引金額と証拠金との比率がレバレッジとなる(場合によっては10倍以上に)。

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2011年10月12日 (水)

2-4-4 流動性リスクはついてまわる

姉「さらに流動性リスクの話です」

弟「またですか」

姉「またです。流動性リスクは取引相手が見つからなくなるリスクであるとお話しました」

弟「そうだね」

姉「そして、売りや買いに注文が偏ると起きるという話をしました」

弟「うんうん」

姉「ここで、大きな資金を動かすファンドのことを考えます。一般に、ファンドは資金が大きくなればなるほど市場の取引で利益を上げるのが難しくなります。なぜなら、ファンドが出す注文が大きくなりすぎて注文が偏ってしまうからです(※注8) 」

弟「え~?なんか大きなファンドって、大量の注文で自在に価格を操作して大もうけ、ってイメージなんだけど」

姉「確かに値段を動かすことはできますが、例えば値段を吊り上げる場合だと、どんどん高値でも買っていくわけですから、高値で買ってしまった不利なポジション(※注)が増えるわけです。そして、いざ利益を確定するため売り注文を出すと、今度はどんどんと値段が下がってしまって、利益にはならないのです。投機資金は、買えば売るし、空売りすれば買い戻す、という具合に結局差し引きゼロになるので、市場の値段への影響については中立とも言われます」

弟「へー。そうなんだ」

姉「というのは半分嘘です」

弟「がくっ」

姉「大きく動かした後の値段を正当なものだと他の人に思い込ませることができれば、ファンドは無事利益を確定することができます。お抱えのアナリストに、あること無いこと吹聴させたりするわけですね」

弟「ひどい」

姉「ただ、本当に何かの要因で市場の価格がおかしくて、投機資金によりそれが正されるということはあります。たとえばジョージ・ソロスは、当時イギリス経済の実力以上に無理やり買い支えられていたポンドを売ることで大もうけしました。ちなみに、彼は間違った価格に対して逆張りすることに信念を持っているようです。また、彼はオプションについては倫理的に問題があるといっています(※注9) 」

弟「オプション?」

姉「簡単に言うと保険や宝くじのようなもので、例えば株価のオプションだと特定の期日(または期間中) の株価によって支払額が決まります。反対売買をしなくても支払額が自動的に決まるというのがミソです」

弟「どういうこと?」

姉「さっき、買えば売るし、空売りすれば買い戻す、といいましたが、オプションに関しては、これが当てはまらないことがあるのです。それは、無理やりにでも価格を動かしてしまえば、価格を無理やり動かす過程では損をしても、オプションでその損以上に利益を得られる可能性があるということなんです」

弟「じゃあ、お金のあるファンドがやりたい放題かー」

姉「まあ、過去には日本の輸出企業がカモになったりとかがあったりしたみたいですが、そういうカモがいなければ、ファンドの大量のオプション取引に応じられる相手はまた別のファンドということになります。いざ価格を動かそうにも、相手の資金力のほうが大きくて逆にねじ伏せられたりするので、無理やりに値段を動かすのは、そう簡単ではありません」

弟「むぅ」

姉「ただ、市場規模が小さくて値段を動かしやすい個別株のカバードワラント(※注10) なんかを個人投資家が買うのは、ファンドに対して無防備すぎるように見えますね」

弟「資金量がものをいうんだね」

姉「だいぶ話が迷走しましたが、基本的には、一度に出す注文の量が多くなればなるほど流動性が必要になって不利になるのです。ここから、とても重要な結論が出てきます」

弟「なんだろう」

姉「たとえどんな方法であろうとも、大多数が同時に同じ注文を出したら、その取引は流動性リスクのせいでとても不利になります。つまり、いつでも必ず通用する相場必勝法は原理的にありえないんです。特に、大勢に知られた時点で優位性はなくなります」

弟「トレンドフォローでも?」

姉「トレンドフォローでも。トレンドが出たと思われた時点で注文が殺到してしまいますので、トレンドについていけなくなります。仕手株なんかでありますが、何か材料が出て値上がりしたので注文を出したけど、何日もストップ高でぜんぜん買えない。そしてようやく注文が約定したかと思ったら、翌日からストップ安の連続で、まったく売れずにじっと手を見る」

弟「あうあう……じゃあ、むちゃくちゃ資産が多ければ、逆張りナンピンで勝てるというのは?」

姉「みんなが逆張り始めたら、値段が動かなくなって儲からなくなります」

弟「あうー」

姉「インターネットとかで、これで儲けました、なんて広告があっても、採用しちゃ駄目駄目です」

※注8 マーケットインパクトが大きくなるといいます。

※注9 日経ビジネスオンライン2009年6月29日「CDS契約を購入するのは、他人の命を対象とする生命保険に入り、その生殺与奪の権を握るようなものだ」。

※注10 オプションを組み込んだ証券。

※注 現金以外の商品を保有する、または空売りを行うなどを、ポジションを取るといいます。安値で買った株などは利益を得やすいので有利なポジションといい、逆に高値で掴んだものは不利なポジションです。そして、自分のポジションに都合がよいような話をすることをポジショントークといいます。

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2011年10月13日 (木)

2-4-5 流動性リスクと分散投資

姉「結論から言うと、分散投資は、前述の信用リスクへの対処としては強力なのですが、流動性リスクに対してはいまいちなのです」

弟「ほぅ」

姉「なぜなら、分散投資とはいえ、そのほとんどの投資対象は、お金で買うものである、ということに変わりはないからです」

弟「というと?」

姉「流動性リスクが顕在化してお金の価値が上がるときは、いくら分散していても、その分散した投資対象はそろって値段が下がるのです(※注11)。そしてそれは困ったことに、日ごろは問題なくても、百年に一度とかいわれるような危機のときに一気に顕在化します」

弟「うーむ」

姉「さらにいえば、信用リスクのところで分散投資の話が出たときに、ポートフォリオ理論やCAPM(Capital Asset Pricing Model) みたいな話に触れなかったのは、それらが頼りないと思っているからです」

弟「うわー、またひどいことを」

姉「ポートフォリオ理論というのは、別々の値動きをするものを組み合わせれば、両方を足した価格の動きは多少なりとも相殺されるため、単純に加算されるインカムゲイン(配当、クーポンなど) に比べてリスクの増加が少ないので、結果としてお得というものです」

弟「かなりざっくりとした説明だね」

姉「ここで、ある株式のA株とB株を考えます。A株が値上がりすればB株は値下がりするといったように、まったく反対の値動きをしていたとします。これはとっても美味しい話で、A株とB株を適当に組み合わせれば、値動きが相殺されて、ノーリスクで両株の配当をゲットできることになります」

弟「なんと」

姉「そして、ある大きなファンドがそのことに目をつけてA株とB株を買いました。A株もB株も値上がりしました。また、あるとき運用が終了してファンドが解散しました。株は売り払われて、A株もB株も値下がりしました」

弟「……それって、値動きが同じになっちゃってるよ!」

姉「そのとおり。これもまた流動性の話なのです。流動性が無限にあればこんなことにはならず、A株とB株は値動きが反対のままです。しかし、現実には投機資金を完全に受け流せるような流動性など望むべくもないのです。そして流動性が有限である以上、自分やライバルの投資行動自体によって投資対象の値動きの方向がそろってしまい、ポートフォリオのリスクを増大させる方向に働くのです」

弟「むー。この話に出てきたのは、大きなファンドだったけど、個人投資家が、こっそり投資するのなら大丈夫なのかな」

姉「絶対駄目、とはいえないけれど、あまり筋の良い話ではないということは変わらないのです。なぜなら、ポートフォリオを組んで投資をするということは、ある程度長い期間にわたって投資をすることになります。そして、その期間中、他の投資家がその美味しいポートフォリオの組み合わせに気が付かない必要があるのです。IT化が進んで、投資対象の値動きの分析などが容易になった現在では、それは望み薄です。たとえ自分が一歩先んじても、利益を得る前に他人に追いつかれてしまっては、がっかりです」

弟「……がっかり」

姉「また、代替投資(alternative investments) という言葉もあり、値動きの相関性が異なる非公開株式、商品、不動産などへの投資が勧められたりすることもあります。しかし、なぜ値動きの相関性が異なるかというと、流動性が低くて投機資金があまり入ってないからだったりするのです。流動性が低いということは、売買によって価格が動きやすいということですから、代替投資が盛んになったとたん、期待したような相関性は得られなくなるかもしれません」

弟「将来の値動きを保障するものではありません……か」

姉「まあ、あえて考えれば、相関が異なるものを見つけて買い付けて、その値動きを監視して、相関が同じになってきたら売るということをすれば、あとからポートフォリオを組んだ人をカモれるかもしれませんね」

弟「また、怪しげなことを……」

姉「それは置くとして、流動性リスクへの対処として、大雑把に半分以上お金で持つようにといった理由のひとつには、ポートフォリオのリスク低減効果への疑いがあるわけです」

弟「石橋を叩いた結果だね」

※注11 正確には、「一番使いやすくて安全なもの」以外の値段が下がります。場合によっては通貨も価値を失いますが、幸か不幸か現在の日本円は「とても安全なもの」と考えられています。

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2011年10月16日 (日)

2-4-6 流動性の余談

姉「さて、ここで単純なゼロサムゲームを考えてみます。丁半ばくちに、たくさんの人が必ず自分の持つ全額を賭けるとします。勝ったほうが場に出たお金を山分けします」

弟「なんという、鉄火場!」

姉「必ず丁半どちらにも賭ける人がいるという条件で勝負を続けると、最後には一人がすべてのお金を総取りして、それ以上ゲームを続けられなくなります」

弟「当然そうなるね」

姉「これは、流動性が枯渇したとも考えることができます。これほど過激なルールでなくても、資金量が有限のゼロサムゲームを続ければ、勝ち負けが完全にランダムであっても、統計的にごく少数ですが勝ち続ける人がいますので、少数の人が大勝して多数の人が破産してゲームが終わります」

弟「うーん?ランダムなら勝っている人が半数になるのでは?」

姉「資金量が無限にあればそうなんです。むちゃくちゃ勝っている人がいても、むちゃくちゃ負けている人が払えばつりあいます。しかし、資金量が有限である場合には、負けた一人が支払える金額には限度があります。全体のお金の量が一定なので、勝ち続ける人がいるということは、たくさんの人が負けていなければつりあわないわけです(※注12)」

弟「むー。確かに、最初の例もよく考えてみるとそうかも」

姉「ちなみに、実際の株式市場では市場の外からお金が入ったり出たりしているので、単純なゼロサムゲームではないのですが、株式市場のプレーヤの個々の取引行為に焦点を当てると、ほぼゼロサムゲームとして考えられます。また、デリバティブ市場では、取引がゼロサムとなるように設計されています(※注13) 。市場では2割の勝者と8割の敗者がいるという噂もありますが、資金量有限のゼロサムゲームの結果と考えれば、それなりに妥当性があります」

弟「ふーむ」

姉「そして本題。このゼロサムゲームを長続きさせるにはどうしたらよいでしょうか」

弟「うーん。一度に賭けるお金を少なくしたりとか?」

姉「それもひとつの方法ですね。著名投資家のウォーレン・バフェットは、取引回数をなるべく少なくするようアドバイスしていたりもします。さらに過激な方法もあって、勝った人からお金を徴収して負けた人に配ればいいのです」

弟「それは……税金だね?」

姉「そのとおりです。市場というのは、何か優れたものを見つけ出すのにはすごく向いているのですが、一度見つけ出してしまうと、往々にして独占になってしまって、それ以上市場が働かなくなってしまうのです。それを防ぐには、勝者から利益を分配して、ライバルが復活できる素地を残さなければなりません」

弟「だけど、勝ち分を税金で全部持って行かれてしまうなら、ゲームをする気にならないし、そうでないなら、いずれ誰かが大勝ちしてゲームが終わってしまうことに、変わりはないのでは?」

姉「とりあえずは、時間が稼げればよいのです。実際の市場なら、ある程度時間がたてば、新製品が出てきたり人の入れ替わりがあるので、それまでに市場が煮詰まってしまうようなことがなければ、市場が機能し続けると思うのです。再分配というと『社会主義だ!』と騒ぎ出す人もいますが、これは市場経済の問題で、市場の活気を保つために、考えなければならないことだと私は思うのです」

弟「勝ち逃げなど許さん。永遠の競争こそ経済の活力の源であると?」

姉「そうです。でも、競争社会というと、もうストレスフルでどうしようもないイメージですけどね」

弟「働いたら負けかなって感じで」

姉「ただ、これは競争そのものというより、リスク強度の問題だと思うのですよね」

弟「どういうこと?」

姉「麻雀を例に挙げてみると、例えばインターネットの『東風荘』はお金を賭けるわけじゃないし、特にゲームの演出として派手なわけではないです。でも、レートとして自分の相対的な強さがわかって、なかには人間辞めてそうなレベルで強い人なんかもいたりして、とても面白いのです」

弟「時間泥棒だね」

姉「それに対して、『鷲巣麻雀』(※注14)だったら、まともに最後まで打てるのかも怪しいものです」

弟「ぐっ……地獄っ……圧倒的なっ……死……!」

姉「同じ麻雀でも、リスクの大小によって、天国にも地獄にもなるわけですね。本来、ゲームや競争は、つまらない仕事を面白くする、人類の英知とも言っていいものだと思うのですが、強欲な、あるいはリスクジャンキーな人が歪めてしまっているように思えるのです」

弟「生活のためには、まじめに仕事をして競争に打ち勝って儲けなければならないとは思うけど」

姉「投資をしていると、賭け事との差について考えることも多いものですが、生活に支障が出るような大金を賭ける事は犯罪なのに、生活に支障が出るほどのリスクを負った競争は黙認されている、というのも変な話ですよね」

弟「これまた極端な意見だね……」

姉「まあそこまでは言わないまでも、税金でがっつり再分配してセイフティーネットをしっかり張っておいたほうが、リスク強度が下がってストレスが減り、また、流動性が枯渇せずに競争を長く堪能できて、経済の活気も長続きするのではないかと思いますね」

弟「……なんか、まじめに社会のことを考えているみたいだけど、本心のところは?」

姉「相場の歓喜を無限に味わうために。次の相場のために。次の次の相場のために」

弟「……姉者が平野耕太を好きなのはよくわかりました」

※注12 この辺の話も含めて、Web Site『なりきりランダム論者』は必見の価値があります。

※注13 取引手数料の分マイナスになります。

※注14 負けると血を抜かれます。死にます。

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2011年10月17日 (月)

3-1 なぜ国債

姉「まあ、本当は国債である必要はないのですけど……」

弟「わー、ぶっちゃけたー!……社債とかもあるみたいだけど?」

姉「どうしても社債は金融機関向けにまず売り出されるので、個人は機関投資家と平等な条件で投資することが難しいのです。国債は個人に対しても売り出し条件がきちんと決まってますので、中途での売却などを考えなければ、不利になることはありません」

弟「ふむふむ」

姉「それに、万が一途中解約が必要になっても、条件に従えば(※)解約できるので、流動性が確保されています。一応国が保証していますので、信用もあります」

弟「信用……?」

姉「まあ、それはおくとしても、投資の考え方としては、ほかの債券や定期預金なんかも同じですので参考にしてください」

※個人向け国債には解約できない期間があります。

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2011年10月18日 (火)

3-2 債権への投資の考え方

弟「国債を買うとしても、いろいろ種類があるね。じゃあ、とりあえず今持ってるお金全部で、一番利率が高い10年利付国債を買おうかな」

姉「というのが、一番駄目な買い方です」

弟「にゃー!」

姉「債券に投資するときに重要なのがキャッシュフローです」

弟「お金の流れ?」

姉「債券はあまり流動性が良くありません。比較的流動性の高い国債でも、買取してもらうとなると手数料などを勘案して、それなりに不利になります。そのため、基本的には満期まで持ち続けることを考えます」

弟「そうか。満期まで現金が戻らないとなると、途中でお金が必要になったとき困るね」

姉「インフレになったりして債券の価格が下がるときにも困ります。現金がきちんと回るようにしなければならないのです。具体的にはラダー型(ladder) の運用とバーベル型(barbell) の運用があります」

弟「どういう感じなのかな」

姉「まずラダー型ですが、国債に投資するお金を10等分して、毎年10分の1ずつ10年利付国債を買っていきます。そうすると11年目には最初に買った分が満期になりますから、11年目以降は毎年10分の1ずつキャッシュフローを得られるわけです。それでまた国債を買えばずっと運用が続くことになります」

弟「はしご?」

姉「この運用をすると、保有している国債の満期までの期間が10年、9年、8年……ときれいに並ぶのでラダー(はしご) 型と呼ばれます。10年利付国債を満期まで持ち続けますので、国債金利の動向が読めないという前提では、パフォーマンスの安定性が高い運用になります」

弟「将来の金利がわかるなら、誰でもお金持ちだけどね」

姉「そして、ラダー型の欠点は、キャッシュフローが少ないので、突発的な資金不足や、インフレなどへの抵抗性が弱いことです」

弟「なるほど」

姉「つきにバーベル型の運用です。こちらは国債に投資するお金を4等分して、毎年4分の1ずつ10年利付国債と2年利付国債を買います」

弟「あれ?3年目からお金が足りなくなるよ?」

姉「そうです。そのため3年目には1年目に買った10年利付国債を売却します。そのため保有している国債の満期までの期間が10年、9年、2年、1年と間が開いた形になりますので、バーベル型と呼ばれます」

弟「あれれ?国債を途中で売っちゃうの?」

姉「そうなんです。そこが最大の弱点になっています。ひどい場合には、10年利付国債の売却損で、運用しないほうがまし、なんてことになる可能性もあります。ただし、キャッシュフローを多く保てるので、不測の事態への対処はしやすいです。また、柔軟に運用をすることもできます。例えば、10年利付国債の値段が高いときには10年利付国債の割合を(4分の1より) 減らし、値段が安いときには割合を増やすといったことも可能です」

弟「ちょっと難しそうだけどね」

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2011年10月19日 (水)

3-3 ワイルドカードとしての『個人向け国債(変動・10年)』

姉「さて、ここで問題です」

弟「何!?」

姉「いまから『10年利付国債』のラダー型運用を始めるとしたら、毎年どのように国債を買っていけばよいでしょうか」

弟「えーと、さっきの話からすると、『10年利付国債』を毎年10分の1ずつ買っていくんだよね」

姉「そう。だけど、ラダーが出来上がるまでの間に、浮いたお金を『5年利付国債』と『2年利付国債』で運用することまで考えると、どうなるでしょうか?」

弟「それじゃあ、1年目は『2年利付国債』を10分の6、『5年利付国債』を10分の1、『10年利付国債』を10分の1買う。2年目は『5年利付国債』を10分の1、『10年利付国債』を10分の1買う。3年目は『2年利付国債』を10分の2、『5年利付国債』を10分の1、『10年利付国債』を10分の1買う。4、5年目は『5年利付国債』を10分の1、『10年利付国債』を10分の1買う。6年目以降は『10年利付国債』を10分の1買う」

Sono1

姉「なかなか優等生っぽい感じですね。『5年利付国債』でもラダーを作っているあたり、運用手法の趣旨を理解している感じです」

弟「もうひとつ。1年目は『2年利付国債』を10分の3、『5年利付国債』を10分の5、『10年利付国債』を10分の1買う。2年目は『10年利付国債』を10分の1買う。3年目は『2年利付国債』を10分の1、『10年利付国債』を10分の1買う。4年目は『10年利付国債』を10分の1買う。5年目は『10年利付国債』を10分の1買う。6年目は『2年利付国債』を10分の3、『10年利付国債』を10分の1買う。7年目は『10年利付国債』を10分の1買う。8年目は『2年利付国債』を10分の1、『10年利付国債』を10分の1買う。9、10年目は『10年利付国債』を10分の1買う」

Sono2

姉「これはちょっとひねくれた感じですね」

弟「うわー。自分で言うのもなんだけど、ややこしいね」

姉「そんな面倒くさがり屋さんにお勧めなのが『個人向け国債(変動・10年)』です。特徴は元本保証であることと、変動金利であることです」

弟「それを使うとどうなるのかな?」

姉「1年目は『個人向け国債(変動・10年)』を10分の9買って、『10年利付国債』を10分の1買います」

弟「いきなり全部10年物みたいだけど、翌年以降はどうするの?」

姉「翌年以降は『個人向け国債(変動・10年)』を部分解約して、『10年利付国債』を10分の1ずつ買っていきます」

弟「なんですと」

姉「解約することで金利にはペナルティがあるのですが、元本は保証されているので、それを逆手に取るわけです」

弟「……えげつない」

姉「ルールはきちんと利用してこそですよ。変動金利なので、一度に買い付けてしまっても、金利の変動に一喜一憂する必要がないというのも便利なところです」

弟「なるほどねー」

姉「そうして、国債運用のもうひとつの形であるバーベル型なのですが、実はこれってコンセプトとして『個人向け国債(変動・10年)』と同じなんですよ。金利収入を多少減らしても金利変動に対応できるようにというところが。なので、購入のお手軽さと元本保証であるところなんかを考えると、『個人向け国債(変動・10年)』を買っておけばよいのじゃないかと思いますね」

弟「なんだか、ものぐさだなあ」

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2011年10月20日 (木)

3-4 本当に国債を買っちゃっていいの?

弟「ここまで、あれこれ国債について話をしてきてなんだけど、いま、日本の国債を買ってもよいものなのだろうか」

姉「将来のことはわからないので、なんともいえないのですが、今国債を買うのはチャレンジャーという話も聞きますね」

弟「……やっぱり駄目な感じ」

姉「ただ、現時点では、預金するというのは、銀行を通じて国債を買うというのとほとんど同じ意味なんです。どうせ同じリスクを負うなら、銀行にピンはねされない分、自分で国債を買ってしまったほうがましという考えもあります」

弟「しっかり割り切って考えれば、ありってことか……」

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2011年10月21日 (金)

4-1-1 72の法則

姉「さて、ここで72の法則というものがあります」

弟「なにですか、それは」

姉「72を年利回り%で割ると、その結果の数字が、複利で運用したとき何年で2倍になるかの年数になるというものです」

弟「へー。どうしてそうなるの?」

姉「年利r%で複利で運用すると、元の元本Aはn年後には、A*(1+r/100)^nになりますから、それが元のAの2倍になるとすると、このようになります」

A*(1+r/100)^n = 2A

姉「両辺をAで割った後、自然対数をとります」

(1+r/100)^n = 2

n*ln(1+r/100) = ln2

姉「両辺を整理して、マクローリン展開(※注15)を適用します」

n = ln2/ln(1+r/100)

n = 100ln2/r

姉「ln2 = 0.69... なので」

n = 69/r

弟「……69の法則?」

姉「72のほうが約数が多いので、計算が楽だから選ばれたんじゃないかといわれていますね」

※注15 log(1+x) = x - x^2/2 + x^3/3 - x^4/4 +... 
rが大きいと誤差が増えますが、高利回りはサラ金の借金ぐらいなのでlog(1+x) = xとします。

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2011年10月23日 (日)

4-1-2 相加相乗平均

姉「さて、前項で出てきた複利の利回りですが、毎年一定なら問題ありませんが、一定ではないときはどうやって平均を出せばよいでしょうか?」

弟「普通に足し合わせて年数で割れば駄目?」

姉「駄目です」

弟「アウチ」

姉「例えば、1年目に10%儲けて、2年目に10%損したらどうなるか計算してみます。元本Aから1年目に10%儲けるので、A*(1+10/100) = A*1.1となり、それが2年目に10%損するのでA*1.1*(1-10/100)=A*1.1*0.9 = 0.99Aとなります。式を見てもらえばわかるように、1年目と2年目の損得の順番を入れ替えても同じ結果になります」

弟「あれ、儲けと損失が同じ10%なのに結局損してるんだ」

姉「そうなんです。ここで複利での平均利率をrとしてX = (1+r/100)とおくと、Xは元本が平均で年間何倍になるのかをあらわします。今回の例だと」

A*X*X = A*1.1*0.9

X = 0.99^(1/2)
1+r/100 = 0.99^(1/2)
r = -0.5...

姉「となって、大体r=-0.5と求まります。さらに、n年間運用して各年に元本(※注16) が何倍になったかというのをp_1倍, p_2倍, p_3倍, ... p_n倍とすると」

A*X^n = A* p_1 * p_2 * p_3 *...* p_n
X = ( p_1 * p_2 * p_3 *...* p_n )^(1/n)

姉「として、一般に求めることができます。n回掛け合わせたもののn乗根をとっているので、相乗平均になっていますね」

弟「これは、表計算ソフトにお願いしないと計算できないね……」

姉「ここで、単利での運用についてもふれておきます。この場合、毎年必ず元本としてAだけ運用します。n年間運用して各年に元本Aが何倍になったかというのをp_1倍, p_2倍, p_3倍, ... p_n倍とすると」

n*A*X = A* p_1 +A* p_2 +A* p_3 +...+A* p_n
X = ( p_1 + p_2 + p_3 +...+ p_n )/n

姉「となって、こちらの平均運用利回りは、通常の相加平均で求まることになります」

弟「こっちは普通の平均なんだ」

姉「ここで、高校数学でお世話になった公式が登場」

(a+b)/2 ≧ (a*b)^(1/2)

弟「うわあああ。相加相乗平均だあああ」

姉「はいそうです。ちなみに、これは一般的にも成り立ちます」

( a_1 + a_2 + ... + a_n )/n ≧ ( a_1 * a_2 * ... * a_n )^(1/n)

姉「さてこの公式で等号が成り立つ条件は何でしたっけ?」

弟「a_1 = a_2 = ... = a_nでございます」

姉「そのとおりですね。最初に言ったように、利回りが毎年一定なら、単利のときと同じでよいのです。それ以外のときは、必ず単利のときより平均利回りの値が小さくなるので注意です」

弟「複利で高利回りを達成するのは大変なんだね」

※注16 前年までの運用成果により額が変わってきます。

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2011年10月24日 (月)

4-1-3 ボラティリティ、レバレッジ

姉「金融の教科書に必ず書かれている原則として、投資家は期待値が同じであればボラティリティ(※注17) の小さいほうの選択肢を選ぶ、という話があります」

弟「本当にそうなの?」

姉「実際に調べてみると違うみたいなんですけどね」

弟「……やっぱり」

姉「ただ、複利の利回りを調べてみると、ボラティリティが小さいほうを選ぶ理由もあるのです」

弟「どういうこと?」

姉「例えば、1年当たり利回りが10%確定の証券と、50%の確率で30%の利益が出るけど50%の確率で10%の損失が出る証券では期待値は同じになります」

弟「ふむふむ」

姉「後者の証券で2年運用するとすると、30%の利益と10%の損失が1回ずつになる可能性が一番高いです。これを最頻値といいます。そして、その最頻値のときの複利の利回りは、先ほどと同様に計算して、約8.2%になります」

弟「あれれ、10%より小さくなっちゃうんだ」

姉「そうなんです。運よく30%の利益が続けば大きな利益になるのですが、それ以外のパターンでは期待値ほどの利益が出ないことも多いのです」

弟「期待値が同じなのに、大きな利益が可能ということは、失敗する可能性も高いんだね」

姉「そういうわけで、最頻値でのリターンを考えると、期待値が同じなら、ボラティリティが小さいほうが利益が見込めるということにもなるのです」

弟「なるほど」

姉「ここで、レバレッジ(※注)のことも考えてみます」

弟「てこ?」

姉「そうですね。レバレッジをてこの原理に当てはめて説明することがあります。詳しい説明は省きますが、レバレッジを効かせると、利益も損失も同じ割合で増やすことができます」

弟「へー。利益が増やせるならすごいね」

姉「では、先ほどの証券の例で考えて見ましょう。最頻値では、30%の利益と10%の損失が1回ずつになると言いましたが、ここで2倍のレバレッジを効かせると、60%の利益と20%の損失となり、複利の利回りは約13%になります。同様に計算すると、3倍のレバレッジの利回りは15%、5倍のレバレッジの利回りは約12%になります」

弟「あれ?5倍のレバレッジの利回りは、2倍のレバレッジより悪くなるの?」

姉「そう、そこがミソなんです。そして、このままレバレッジを増やしていくと、7倍で利回りはマイナスになり、10倍以上では全財産を失うことになります」

弟「あー。0をかければ全て0ってことだね」

姉「そうです。期待値がプラスの証券なので、レバレッジを上げれば上げるほど利益が増える、と考えてしまいがちなのですが、落とし穴があるのです。ボラティリティがあり、損をする可能性のあるものは、レバレッジで損失を膨らませてしまうと、それがものすごい勢いでパフォーマンスの足を引っ張るのです(※注18)」

弟「そういえばバフェットおじさんも言っていたよ。『ルールその1、絶対に金を損しないこと。ルールその2、絶対にルールその1を忘れないこと』」

※注17 利益や損失の振れ幅。利回りが固定され、元本が保証されているものは、ボラティリティがないことになります。

※注18 ケリー基準を解説しているサイトが勉強になりお勧めです。

※注 実際に取引されるものの総取引金額と、取引をはじめるときに出さなければならない必要額の比率。通常の株取引では、株式買い付けの全額が必要なのでレバレッジ1倍。信用取引では、たいてい手持ちのお金の3倍までは(足りない分は借金として)株式を買うことができるのでレバレッジ3倍。先物やFXなど証拠金取引では、総取引金額の一部のみを証拠金として出せばよいので、総取引金額と証拠金との比率がレバレッジとなる(場合によっては10倍以上に)。

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2011年10月25日 (火)

4-2 数字の感じ方

姉「数字を数えるとき、よくこんな感じになりますよね。1、2、3、いっぱい」

弟「なんでやねん」

姉「まあ、ここまでひどくなくても、人は感覚で大きな数というものをきちんと把握するのは難しいのです」

弟「感覚ねえ」

姉「例えば株式の含み損が30万円あるとします。投資の世界ではたいした額ではないように思ってしまいがちですが、チロルチョコ1万個分の損と考えるとすごい損のような気がしますよね」

弟「チロル算のススメ!?」

姉「というのは置いておきます」

弟「え~」

姉「ここから本題。お金がないときに10万円もらえるとうれしいですが、1000万円もらえるときに1010万円もらえることになっても、前の例ほどはうれしさが増えません。逆に、いきなり10万円の出費は痛いですが、家を買うとかで3000万の出費を予定しているときに、何かの都合で10万増えても、あまり変わらないような気がします」

弟「う~む。わからないでもない」

姉「これは、お金の単位あたりの人の感情への影響(効用)が、お金の額が増えると減少する、というふうに見ることができます」

弟「ふむふむ。それが投資に関係するの?」

姉「大いに関係すると考えられています。つまり、少しの利益でも、それがとても大事なものに感じられ、すぐにその利益を確定したくなります。また、少しの損でも、それを確定するのがつらいので、どうせ損をするなら同じ、とどんどん損を拡大してしまうことがあります」

弟「典型的な負けパターンだね」

姉「人にはそういう傾向があるということを、あらかじめ考慮に入れておくことも必要かと思います」

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2011年10月26日 (水)

4-3 統計的な考え方

姉「さらに少し、統計的な考え方についても話をしておきましょう」

弟「なんだか難しそうな話だね」

姉「難しい話はなるべく置いておきます。まず、先ほど、人間の数字に対する感じ方という話しをしましたが、人は頻度に対しては、感覚ではさらにあやふやな理解しかできないのです」

弟「うーん。例えば?」

姉「そうですね、内閣府がH22年11月に行なった少年非行に関する世論調査の結果を見てみましょう。この世論調査の結果では75.6%の人が少年非行が『増えている』と回答していて、『減っている』と答えた人は3%しかいませんでした。しかし実際には2005年から2009年の間に少年の刑法犯の摘発者数は3割近く減少していたのです」

弟「それって、摘発者数だから、つかまっていないだけで非行は増えているとか……」

姉「しか~し。同じ調査で、身の回りで実際に少年非行が起きていないと44.3%の人が答えていて、この数字は2005年の前回調査から10%近く増えているのです」

弟「ええ~。摘発者も減っているし、実際に非行を目にしてもいないのに、非行が増えてると思っているんだ」

姉「思い込みは本当に恐ろしいですね。そして、この思い込みの元になっているのは、人間の頻度に対する感覚の鈍さがあるともいえます。そういえば前もこうだった、ということがあったり、強い印象が残っていると、実際よりも頻度が高いように感じられてしまうのです。きちんと調べないと、落とし穴にはまるかもしれません」

弟「ちゃんと数字をみて考えるというのが、統計的な考え方なんだね」

姉「ものすごく基礎の基礎なんですけどね。もうひとつ大事な話があって、人は因果関係を感じてしまいがちであるということです」

弟「どういうこと?」

姉「例えば、世の中には『3た療法』というのがあります」

弟「サンタ療法?なんかプレゼントをくれたりとか?」

姉「いえいえ。『使った、治った、効いた』の3つの『た』からきてます。薬を使って、病気が治ったので、その薬が効いたと結論する怪しげな療法のことです」

弟「怪しげなの?なんかそれでいいような気がするけど……」

姉「薬を使ったことと、病気が治ったことが事実でも、実はそれだけでは薬が効いたかどうかはわからないのです。何もしなくても、病気が勝手に治ることはありますし、その薬以外の何か別のものが効いたのかもしれませんし、心理的な効果で効いたのかも知れません」

弟「むむむむ」

姉「もし、薬の効果を確かめようというのであれば、その薬以外の効果を差し引く必要があります。物理や化学の実験なら、実験条件を整えてあげることで、目的のものの効果だけを調べることができたりしますが、人の場合はそう簡単ではないので、統計のお世話になるわけです」

弟「そうなのかー」

姉「そうなのです。ここで考えなきゃいけないのは、何かをして、自分の狙った効果が得られたとしても、実はそれは『まぐれ』にすぎないのではないかということです」

弟「そこで統計を使えば大丈夫なの?」

姉「統計のほうが人の感覚よりはましなのは確かですが、一方で数字として出てしまうので、実際にはその数字の意味を考えるのは難しくても、安易な結論に結び付けられてしまったりもします。統計をきちんと使いこなすためには、修業が必要です。ただ、説明したように、統計がなぜ必要なのかという理由は知っておきたいですね」

弟「人の感覚はあやふやで因果関係を思いこみやすいから、何かが有効だって結論することには、慎重にならなければいけないということだね」

姉「そして、もう一つ考えておかなくちゃならないことは、統計的に有効だということが分かっていても、それがいつも有効だとは限らないということです」

弟「さらに慎重にならないといけないと」

姉「ここまで話してきたことは、専門ではない人が、他人に薬を勧めてはいけない理由でもあります。勧めた本人は薬だと思っていても、それは薬ではないかもしれない。本当に薬だったとしても、相手に効くかどうかはわからない。健康に関することも、金融に関することも、人の一生にかかわりかねないことですから、安易な助言は禁物です」

弟「良かれと思っても、自重しないといけないんだね」

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2011年10月27日 (木)

5-1 はじめに

姉「今は昔、男ありけり」

弟「今昔物語ですか!」

姉「現代語で。むかしむかし、あるところに漁師の男がいました。天気の良い日には船を出して漁をして、とった魚を港の市場で売って生活していました」

弟「ふむふむ」

姉「あるとき男が山奥の村を訪ねたとき、魚がとても高い値段で売られていることに気がつきました。男は『何、マジこれ、超やべえ。港の市場で買った魚をここで売れば俺様金持ちじゃん。やべえ俺様超天才、命がけで船にのって漁をするなんて馬鹿じゃん』といって港へ買い出しに行きました」

弟「なんだか、やな感じの男だなー」

姉「男は、魚を山奥の村に運ぶ途中で山賊に襲われて殺されました」

弟「死んだー!」

姉「さて、弟がやな感じというのでちょっと殺してみましたが、やな感じの男が死んだ感想はいかがですか」

弟「ちょっと殺してみたとかいう姉君に聞かれたくないよー!」

姉「まあ、この結末でいいたいことは、真に恐れるべきは山賊のリスクということです」

弟「本当に!?」

姉「いえいえ、弟のせいでちょっと脱線しましたが、この話でまず大事なのは、同じものの値段が違っていることがあるということです」

弟「僕のせいになってる!?」

姉「同じものの値段が違っていることには、いろいろ理由があります」

弟「山賊とか」

姉「しかし、ここで、値段の違っている理由を解決して、なおかつ利益を出せるのなら、それは濡れ手に粟ということになります」

弟「何と甘美な響き」

姉「ただし、取引の性質上、ほかの人に知られて競争になると、どんどん価格差がなくなって儲からなくなります。早い者勝ちです」

弟「確かに、山奥の村で高く売れると言っても、ほかの人が参入して安売り合戦になったら、あまり儲からなくなるね」

姉「このように、同じものの値段が違うときに、安い値段で買って、高い値段で売ることを裁定取引と言います」

弟「サイテー」

姉「いえいえ。こういう裁定取引を狙って競争が起こることで、結局は合理的な値段になるわけですから、商業の一番大事な機能といってもよいくらいです」

弟「ふーん」

姉「そして、投資において、なにか勉強したり努力して利益を出すとしたら、どうやって裁定取引を行うか、なぜ裁定取引が成立するのか、というところを考えないといけません」

弟「うーむゅ。投資の勉強というと、なんかチャートの読み方とか考えるけど」

姉「チャートから売買のタイミングを決めるような方法でも、それが広く知られていなくて利益がでるような、裁定取引の条件を満たすことが絶対ないとは言えません。しかし、チャートの分析はコンピューターの発達により、多くの人が手掛けているため、画期的な方法を独り占めというのは、まずあり得ません。さらに、その分析が現在も通用するかどうかは神のみぞ知る、実際に取引をして結果を見るまでわからない、というのが困るのです」

弟「そうかー」

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2011年10月28日 (金)

5-2 なぜ裁定のようなことが起きるのか

姉「もうちょっと、なんで裁定が行えるようになるのかを考えてみます」

弟「儲け話の真相に迫る……」

姉「裁定が行われるということは、そこに非合理的な値段が付いているということです」

弟「片方から買ってもう片方へ売るだけで、手間に見合ったものより多くの儲けが得られるんだものね」

姉「何故そうなってしまうかというと、当事者が非合理であると思っていないからです」

弟「……。ものすごく当たり前な感じの答えだね」

姉「こうなる原因には3パターンが考えられて、情報が得られない場合、情報があっても理解できない場合、それから、情報を理解できてもそれを元に行動できない場合があると思います」

弟「といいますと?」

姉「まず、情報が得られない場合ですが、そのひとつは市場がパニックに陥ってしまうような大事件のときなどです。みんながどのような価格が正しいのかわからなくなってしまって、時にはとんでもない価格が付いてしまったりします。もう一つは、誰も知らない情報を自分だけが知っているというパターンです。ほかの人はその情報を知らないので、正しくない値段で取引しているかもしれません」

弟「インサイダー取引は犯罪ですけどね」

姉「次に、情報があっても理解できない場合です。ありがちなのは、評価の難しいオプションなどを組み込んだ仕組債を、不利な条件であることを隠して素人に売りつけたりするものです(補遺参照)」

弟「……ひどい」

姉「この項目をあえて作るかどうかはちょっと迷ったのですが、詐欺的な話も気をつけなければいけないので、あえて入れてみました」

弟「そうなんだ」

姉「そして最後は、情報を理解できてもそれを元に行動できない場合です。歴史的に有名なのは、日本から大量の金が流失した幕末の通貨問題や、実勢以上に買い支えられていたポンドが売られたポンド危機が有名です。政治的な理由で裁定の機会が生じてしまっていたわけです。また、かつて、コバンザメ投資法といって、インデックスファンド(※注)の組換えに乗じて利益を上げようという方法が流行りましたが、これはインデックスファンドの投資行動が決まっていることで裁定の機会が生じたわけです」

弟「むむむ……」

姉「いろいろ挙げてみましたけど、大事なのは、裁定が生じるのには何か理由があるということです。そして、その理由が相手の落ち度であると確信できたなら、濡れ手に粟のチャンスです」

弟「……やっぱりひどい」

姉「気をつけなければいけないのは、片方を売ってもう片方を買えば裁定だと勘違いしないことです。本当にそれは裁定なのかと、小一時間問い詰められてしまいます」

弟「誰に!?」

姉「本人が裁定だと思っていても、山賊の話じゃありませんが、前提条件がひっくり返れば、それは裁定ではなく単なる投機です。LTCMの話などは、他山の石とすべきものです」

弟「そう簡単に儲け話が転がってるわけないよね」

※注 TOPIX(東証株価指数)など特定の指標(インデックス)と同じ値動きをするように運用するファンド。機械的に指標構成銘柄を買っているものが多い。日経225などの銘柄の入れ替えのときに、インデックスファンドは新規採用銘柄を買い、指標から外された銘柄を売ることが予想される。

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2011年10月29日 (土)

5-3 キャッシュ・アンド・キャリー

姉「定番のアメリカンジョークです。経済学者と友人が街を歩いているとき、道端に100ドル札が落ちているのを見つけた。しかし経済学者は拾う必要はないという。『あれが本物なら、すでに誰かに拾われてるはずだからNE☆』」

弟「HAHAHA」

姉「裁定機会というのは、道にお金が落ちていることに例えられることが多いです。簡単に儲けられるという意味の他に、そんな機会がそうそうあるわけ無いだろう、という皮肉を読みとってもいいかもしれません。実際に、裁定取引を頑張っても、ほったらかしのインデックス投資より儲からなかった、なんて話は普通です。だけど、もし本当にお金が落ちているなら、ありがたくいただきたいものですよね」

弟「……お金を拾ったら届けないといけないんじゃないかな?」

姉「ととと、当然じゃないですか~。ネコババなんてしませんよ~」

弟「……」

姉「……それでは、実際に裁定についてみていきましょう」

弟「……」

姉「よく行われる裁定には先物取引が絡むことが多いです。これから話す例もそうですが」

弟「それってなんでなの?」

姉「同じものの値段が違うときに裁定が起きるといいましたが、先物というのは、未来のある時点での取引を行うものですから、厳密に言えば現物とは別のものなので、現物とは値動きが違ってきやすいというのが一つです」

弟「ふーむ」

姉「そのうえで、取引期限には先物は現物で決済されます(指数先物は現物から計算された指数で決済されます)。その時点で、よっぽどのことがない限り、先物と現物の価格差はなくなることになります。つまり、価格に何らかの裁定の余地があって、そのときの注文が通れば、取引期限には確実に利益が得られるのです」

弟「わかったような気もしなくもない」

姉「そして本題ですが、キャッシュ・アンド・キャリーの基本形は、現物が安くて先物が高い場合です」

弟「安いほうを買って高いほうを売る」

姉「そうです。例えば、ちょっと資金を借りてきて、金(Gold)の現物を買っておき、同時に先物に売り注文を出しておきます。取引期限に現物を渡してお金を受け取れば、現物を買った値段と、先物を売った値段の差が粗利益になります。そこから取引手数料や金(Gold)現物の保管コスト、借りた資金の金利を引いた上で利益が出れば、裁定成功です」

弟「お金借りてるんだ」

姉「もし自己資金があるなら、金利負担は、金(Gold)の現物を買ってから取引終了までの間に金利収入がなくなるという分だけになりますから、ハードルは下がります」

弟「なるほど」

姉「ちなみに、これの変形として、現物ではなく期日の近い先物を買い付けるというのもあります。ただし、これが可能になったときには誰の目にも明らかなので、競争率は高いです」

弟「裁定取引は早い者勝ちだったね」

姉「さらに、金(Gold)の現物をすでに持っている人は、逆のパターンの裁定をすることができます」

弟「逆?」

姉「そうです。例えば金(Gold)の先物で、取引期限の近いものと遠いものの値段が同じだったとします」

弟「値段が同じなのに裁定?」

姉「そうです。取引期限が違えば、それは厳密には違う商品です。値段が同じなのは、かえっておかしいのです。この場合だと、取引期限の近いものを売り、遠いものを買います」

弟「……とすると?」

姉「順番に見ていきましょう。取引期限の近い先物で金(Gold)を売る約束をしています。なのでその期限が来たら、ある値段で手持ちの金(Gold)の現物を渡して、お金を受け取ります。一方、取引期限の遠い先物で金(Gold)を買う約束をしています。さらにその期限が来たら、同じ値段で先に得たお金を渡して、金(Gold)の現物を受け取ることになります。丸儲けです」

弟「??……金(Gold)がお金になって、それがそっくりそのまま金(Gold)に戻っただけだよね?」

姉「ここで儲けたのは金(Gold)を保有するに当たってのコストです。金塊は、そのままタンスに入れておくわけにもいかないので、それなりに保管料がかかります。さらに、金(Gold)には金利が付きません」

弟「金なのに」

姉「このとき、取引期間中に金(Gold)の値段が上がった場合、その利益を享受できる(買い戻すときの値段はすでに定まっています)という意味で、金(Gold)に投資しているのと同じ権利を保持しています。その上で、お金に換えている期間中は保管料を払う必要がなく、お金を銀行に預ければ金利も付きます。これは丸儲けです」

弟「むー。ややこしいのう」

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2011年10月30日 (日)

5-4 オプションを使った裁定

姉「さてもうひとつ。今度は裁定として基本形とは違うわかりにくいのを挙げてみましょう」

弟「あえてそんな……」

姉「ここで、素人を騙す道具として定評のあるオプションが登場です」

弟「そんな定評嫌だ」

姉「オプションについては、こちらで解説されているように同じ限月・権利行使価格のコールとプットを組み合わせることにより、合成先物ポジションというものを作れます」

弟「先物……をわざわざ合成するの?手数料とか損なんじゃ……」

姉「普通は損なんですけどね。場合によっては儲けが出るようなことがあるのです。ここで日経225先物日経225オプションを例に挙げてみましょう」

弟「また、ややこしいの?」

姉「最初は比較的簡単な例です。例えば、日経225先物の指数が10,000円の時、権利行使価格10,000円の日経225オプションのコールオプション(※注A)のオプションプレミアムが30万円、プットオプション(※注B)のオプションプレミアムが31万円だったとします」

弟「見知らぬ用語がぞろぞろと……」

姉「手数料を考慮に入れなければ、コールを買ってプットを売れば、その時点で差し引き1万円手に入ります。コールを買ってプットを売ると、これは日経225先物の買いポジションと同じになります」

弟「先物の買いポジションを合成したと」

姉「同時に日経225先物を売れば、先物の売りと買いを両建てしたことになり、日経225先物の指数がこの先変動しても利益も損失も出ません。そして取引期限にプラスマイナスゼロで同時決済されますので、最初に得た1万円が自動的に利益になります」

弟「うーむ」

姉「実際には、もうちょっとわかりにくくなります」

弟「えー」

姉「例えば、日経225先物の指数が10,100円の時、権利行使価格10,000円の日経225オプションのコールのオプションプレミアムが40万円、プットのオプションプレミアムが31万円だったとします」

弟「何がなにやら」

姉「ここでコールを買ってプットを売れば、その時点で差し引き9万円の支払いです」

弟「あれ?その時点ではお金を払うの?」

姉「払います。しかし、その合成した先物の買いポジションは、10,000円で約定した買いポジションと等価なので含み利益が10万円あります。なので、同時に日経225先物を売れば、10万円の含み益がある状態での両建てということになりますから、やはり取引期限には差し引き1万円の利益ということになります」

弟「……そうなの?」

姉「そうです。これが、いわゆるコンバージョンやリバーサルと呼ばれるタイプの、オプションを使った裁定取引です。まあ、実際には、大きな機関投資家がコンピューターで自動的にこういった注文を出して裁定しているので、個人投資家の出番はあまりないのですけどね」

弟「しかし、そもそもなんでこんな奇妙なことが起こるのかな」

姉「これは私にはオプションの性質というほかないですね。オプションでは、将来値上がりする確率も値下がりする確率も同じである、という前提の設計になっているのです。なので、どちらかの期待が大きくてオプションプレミアムが片方だけ値上がりすると、裁定が可能になります。そして、裁定取引でオプションや先物に注文が出ることで、値段がつりあうわけです」

弟「じゃあ、将来値下がりする可能性がより高いと思っているなら……」

姉「裁定が効いていて値段がつりあっているなら、コールが割高、もしくはプットが割安と考えることもできますね」

弟「おお!」

姉「ただし、それだけ効率市場仮説に喧嘩を売る自信があるなら、普通に手数料を考えれば、素直に先物を売っといたらよいのでは、という説もなきにしもあらずです」

弟「ああ……」

※注A 指標がある価格より値上がりすると、それに応じて支払いが発生するオプション。コールオプションを買う場合、最初にオプションプレミアムを支払い、決められた期間内に指標が値上がりすると支払いを受けられる(オプションを転売することもできる)。逆にコールオプションを売る場合、最初にオプションプレミアムを受け取り、決められた期間内に指標が値上がりすると支払いをしなければならない(オプションを買い戻すこともできる)。

※注B コールオプションとは逆に指標がある価格より値下がりすると、それに応じて支払いが発生するオプション。

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2011年10月31日 (月)

5-5 いわゆるバリュー投資

姉「同じものの値段が違っているということは、ある“正しい値段”があると仮定すると、片方が高すぎるか、もう片方が安すぎるか、もしくは両方の値段が間違ってるということになります」

弟「理屈の上ではそうだね」

姉「そして、もしその商品の本当の価値(value)にふさわしい“正しい値段”を知ることができ、さらに、間違った値段がついていてもいずれ“正しい値段”がつくというのであれば、間違った値段と“正しい値段”との差額を裁定することが可能になります」

弟「なんか難しそうな仮定が2つもあるねえ」

姉「とても難しいです。投資においては、未来の価値を織り込んで“正しい値段”を推測しなければなりませんが、得られる経営や財務のデータは過去のものなのです」

弟「ふーむ」

姉「端的に、リーマンショックの頃、PER(株価収益率、price earnings ratio)などからみて日本株は割安、などといった言説がありましたが、これから景気が悪くなるときに、景気が良かったときの指標をもちだしても、やはり意味がないのです」

弟「時間がたてば景気は戻るかもしれないけど、そのときはもうその会社の製品が売れなくなってるかもしれないしね」

姉「ウォーレン・バフェットが永続性のある企業を選ぶというのも、裁定の考えやすさという面もあるかもしれませんね。ともあれ、出来合いの指標を参考にしただけで儲けが出ると考えるのは、とても甘いです」

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2011年11月 1日 (火)

6 最後にインデックス投資など

姉「最後にインデックス投資にふれてみます」

弟「よーし」

姉「とは言うものの、すでに成書など出ているようですので、投資の方法自体はそれらを参考にしていただければよいです」

弟「ガクッ」

姉「ただし、すでにお話した注意点はしっかり押さえておいてください。投資先の選定、リバランス(※注)などを行うときは、信用リスクの低減に気を配りましょう。ポートフォリオを組むときには、流動性リスクに留意してください。定期預金や国債を組み込むときは、債券投資の考え方も参考にしてください。そのうえで、何かもっと儲け話を追及したい人は、裁定取引に挑んでみるのも良いでしょう」

弟「なんか強引にまとめたね」

姉「長々と話してきましたが、とりあえずこれにてお開きです。ありがとうございました」

弟「ありがとうございました」

※注 インデックス運用では株式・債券・預金などに資産を振り分ける割合を決めておくことが多い。例えば株式が値上がりすると資産に占める株式の割合が増えるので、株式を売却して債権や預金に振り分け割合を元に戻す。このことをリバランスといいます。特定の商品が値下がりを続けると、それに何度も追加で資金を注ぎ込むことになるので、大きな損失を出す可能性もあります。

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2011年11月 2日 (水)

補遺 特約付外貨定期預金(仕組預金)の話

特約付外貨定期預金は、大抵こんな感じの特約がついています。

円預金ですが、満期日の為替相場が「設定レート」以上に円高になった場合には、「設定レート」で外貨に交換されて払戻されます。

はて、実際のところ特約付外貨定期預金とは、いったいどういう取引なのでしょうか。

実はこれの実態は、いわゆるデリバティブ取引の一種で、オプション取引というものになります。オプションは大体「保険」と同じようなものと考えられます。

つまり

ある特定の期間の後で、私は銀行に対して「設定レート」で外貨と円を交換してあげますよ。もし円安なら銀行は交換しなくてもいいですけど、円高なら当初より価値の高くなった円を当初の「設定レート」で交換しますよ。ただし、「円高でも交換する保険料」として、ある決まった「金利」相当額をもらいますよ。

という話になっていたりするわけです。自動車保険なんかで「ある一定額を払えば、一定期間、対人事故は無制限で補償」と本質的には同じです。

それなら、自動車保険会社が保険をする上で考えることは何でしょうか。

それは、事故で支払われる金額と、その事故が起こる確率に対して、保険料は妥当かどうかということですね。保険料が妥当なら、事故を起こす人がいても全体として黒字になります。けっして、実際に保険を受ける人個人に対して、事故を起こすかどうかを考えているわけじゃありません。個人の未来なんて、神様じゃないとわかりませんからね。

つまり、この仕組預金で大事なことは、将来、円高になるか円安になるかではないんですね。

大事なのは、ある外貨が円高になる確率と、その値動きの大きさに対して、「金利」が妥当なのかどうかなのです。ちなみに、この「保険料(金利)」はオプションプレミアムといったりしますけれど、いったい、いくらが妥当なのかというのは、非常に難しい問題です。ブラック・ショールズ式などを使って挑んでみている人たちもいます(関連)。

どうせ、円安になればいいんだから関係ない、という人は、ゲームを始める前から負けています。それは、歪んだサイコロで丁半博打をすることと同じだからです。

自動車保険の話でも、もし契約数が少なければ、儲かるかどうかは、事故が起こるかどうかの運に左右されます。でも、十分多くの保険契約があるなら、儲けは運には左右されず(事故はだんだん一定の割合になりますから)、保険料によって決まることになります。これが、サイコロの歪みの効果です。

そして、仕組預金の預け入れ期間が定期預金と比べて、とても短い期間になっているというのは、何度も取引をするようにして、銀行が運に左右されないようにしているわけです。それは、「金利」がどちらに有利なように設定されているかを暗示しているかもしれません。

個人的に気になるのは、この「金利」です。「金利」とはなっていますが、実質オプションプレミアムであるといわれても、それを否定するのは難しいです。金利の税率は20.315%(復興特別所得税を含む)ですが、オプションプレミアムの相対取引の税金は総合課税です。たまに税務署はえげつないですから、リスク要因になるかもしれません。(「金利」の税金を銀行が天引きしたのは間違っている、と訴訟する手もある?)

……ひとつオプションと特約付外貨定期預金の違いを忘れていました。オプションプレミアムは、保険料と同じく取引開始時にもらえますが、この「金利」は期日が来るまでもらえません。こんなとこまで残念な感じです。

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2013年2月11日 (月)

補遺2 特約付外貨定期預金(仕組預金)の「金利」について

※例のデータが古いので注意

試しに、ドルの特約付外貨定期預金3ヶ月ものの適正な利率はいったいどのくらいなのか、かなりいい加減ですが、エクセルを使って計算してみました。

要は、これまでの過去のデータから、特約付外貨定期預金で銀行が得た為替差益の平均値を求めて、それに見合う利率を求めようということです。

データはヤフーファイナンスのページからいただいてきました。

http://info.finance.yahoo.co.jp/history/?code=usdjpy=xにアクセスし2008年6月13日から2009年6月14日までのデータを「表示」

すると、検索結果の画面が出てきます。

エクセルを立ち上げ、「データ」→「外部データの読み込み」→「新しいWebクエリ」を選択。出てきた画面で、先ほどの検索結果のURLを入力して「移動」し(選択したいテーブルの左側の「→」をクリックして……だとうまくいかないときがあった)「取り込み」

ヤフーファイナンスの検索結果は50件ずつ出てきますので、各ページで同じことを繰り返します。

データを取り込んだら、新しいシートに、時系列を崩さないように注意して終値をコピーして1年分のデータにします。都合、244営業日分のデータになりました。

そうしたら、終値の隣の列に

=IF(A61-A1>=0,A61-A1,0)

と、計算式を入力します。Aは終値の列を入れてください。ある終値を(大体3ヶ月ということで)60営業日前の終値からひいています(データは降順です)。円高だとプラス、円安はマイナスですが、円安の場合でも銀行側には為替差損は発生しない契約ですから、マイナスの場合は0となります。

※もし特約の条件が「当日の約定金額より m 円円高になったとき」という条件であれば、「IF(A61-m-A1>=0,A61-m-A1,0)」となります。

計算式はセルの右下の黒ぽちをクリックしたまま下に引っ張ることで、どんどん入力することができます。

60営業日前のデータがないと計算できないことに注意して、これで、184営業日分のデータになります。そして、平均を取ります。

=AVERAGE(B1:B184)

Bは先ほどのIF計算式を入れた列です。184営業日分のデータの平均を取ると、5.5円となりました。過去184営業日分の平均で、銀行は5.5円の為替差益を得ているわけです。

さらに当初の終値の平均も出してみます。

=AVERAGE(A1:A184)

大体、96.62円になります。

これで、変動の割合を出して年率%に換算すると

=5.5/96.62*100*4

大体22.8%です。なので、銀行が23%以上の利率を提示しているなら、考えてもいいかもしれません。それ以下の利率なら、やるだけ損です。

ただし、これは過去のデータから計算したものです。将来もっと変動幅が大きくなれば割に合わないことになります。



ちなみに、さらに為替手数料を取る、がめつい銀行の場合も考えてみます。

ドル円のTTSとTTBの差を2円とすると、上記のIF計算式がちょっと変わってきます。

=IF(A61-A1>=0,A61-A1+2,0)

そうすると、銀行の為替差益の平均は、約6.78円となります。後は同じなので同様に計算すると、リスクとつりあう利率は、28%くらいになります。

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